それ以来、高堂とはまともに会話ができていない。
というより、高堂に無視され続けている。
メールも電話も全て拒否され、関係修復は絶望的だった。
そして今日、高堂に話しかけられたが途中で放棄されたのだ。
きっと本当に俺のことが嫌いになってしまったのだろう。
律儀な高堂のことだ、別れを告げようとして話しかけてくれたのだ。
まさか中学の頃から助けられた友人を、まさか恋という得体のしれないものに壊されるなんて思ってもいなかった。
だから嫌いなんだ、恋愛とやらは。
その得体のしれないものを受け入れることが俺にはできなかったから…
お前ごと拒絶する形になってしまったのだ。
元来、臆病な俺がこういうときに出てくる。
どうしていいのかわからないけれど、不安で仕方がなかった。
高堂ほど気のおける友達が他にはいない俺にとって、
友達だと思っていた高堂がいなくなるのがそれだけショックは大きかった。
結局、その日はあれ以上高堂が俺に接触することはなかった。
それが酷く辛い気分にさせた。
次の日も同じように、何事もなく過ぎ去る。
放課後、一人残って宿題に手をつけていた。何かに集中していれば、忘れられるかもしれないと思ったからだ。
「ねーえ、ほんっと最近暗いんだけど?」
放課後、俺を見るなり教室に入ってくるのは池宮ツグミ。
高校一年生のとき、同じクラスで仲良くなった女友達。
演劇部の期待のエースだとかなんだとか、今年に入ってからこのクラスでも名前を聞くようになった。
「どうしたの、聞くよ?私優しいから。」
にっこりと笑う人懐っこい笑みに俺はため息が漏れた。
ツグミの性格は、俺には理解ができないことが多いが、俺も俺で似たようなものだろう。
「ツグミは今、彼氏いる?」
「藪から棒に言うなあ、あんたと同じでいませんよー。
欲しくなったの?それとも好きな子ができた?だったら誰?私の知ってる子?」
「違う…というか、あぁ…そっか。」
その言葉に、俺はヒントを得た。
「ツグミ、ちょっとお願いがあるんだ。」
「私に頼みごと何て、樋口君も偉くなったわね。」
高飛車な態度で鼻を鳴らす。ツグミは俺が嫌いなのだろうか。
「…ツグミは俺が好きか?」
「はあ?…友達としてはそりゃ嫌いじゃないよ。何かほんと大丈夫?」
「俺は今かなり混乱している。」
「だろうね。」
「その混乱をツグミに解いてもらいたい。」
一呼吸おいて、俺はツグミをみた。怪訝な顔が俺の目を見いる。
「もし、ツグミに好きな人がいないなら…少しだけ、俺と噂になって欲しい。」
沈黙があった。答えに戸惑っているいるのか不思議そうな表情をしていた。
「…あんたって、たまに変な言い回しするよね。ようは…樋口君が私の彼氏ってこと?」
「いや、違う…。あ、別にお前を否定しているわけではなく、だな!」
前回の高堂が頭を掠めて自身の否定の弁護を始めればツグミは不思議そうに首を傾けた。
「変なのー。噂って、なにするの?」
「高堂って、わかるか?ツグミとクラス違うけど…。」
おずおずと、高堂の名前を出せばツグミの顔は華やかになった。
「あぁ、わかるわかる。有名だし。樋口君の友達でしょ?
うちのクラスの女子の中では結構人気だもん。あ、樋口君は圏外だよ。」
「俺の情報までどーも。そいつの前だけでいいから彼女の振り
…いや、一緒にいるだけでいい。いてくれないか?」
「悪だくみでも考えてるの?」
眉間にしわを寄せて、ツグミは抗議する。
ツグミも、高堂ほどではないが気の置けない友達だった。
だからなのか、すぐに俺は手の内を明かしてしまった。
「お前には言うが、どうやら高堂は俺が好きらしい。
…でもきっと誤解なんだ…だから、傷つけないように高堂にわからせてほしいんだ。俺は高堂と友達でいたい。」
「…高堂君ってホモなの?」
「だから誤解なんだって…多分。」
「奇麗な顔してるのに勿体ないなーあんたなんかに惚れるなんて。」
はっきり物を言うツグミに今さら何も言い返せはしない。
「それも誤解なんだって…多分。」
同じ言葉を二度言えばツグミは笑った。
「ようは、私が介入して諦めさせればいいってことでしょ?」
「…あぁ。あ、でも、絶対に傷つけないで欲しい。」
傷ついて、泣く姿がまだ頭から離れない。
またあぁなっては欲しくない。
「いいよ。楽しそうだから、付き合ってあげる。ねえ樋口君。」
「何?」
「あんたは私に惚れないようにね。」
「っ!だ、誰が!」
「うそうそ。それじゃあ付き合ってるオーラ出しながら一緒に帰ろうか。」
にっこり笑って手を差し出すツグミに俺は面食らった。
その声がいつもよりずっとやさしかった。
「あぁ…。」
「何か今、すごい失礼なこと考えてない?」
「…気のせいだ。」
俺はツグミの手をとると、ツグミは無遠慮に手を絡ませた。
「恋人つなぎって言うんだよー。手つないで歩いてたらわかるよね?高堂君がどこかで
見てるかもしれないしさ。」
ツグミはそういうと俺の手を強く握った。
なんとなくその手の強さがくすぐったかった。