僕は、ずっとずっと一人です。
なぜなら僕は吸血鬼だからです。
皆、僕のことが嫌いです。
だから僕は一人です。
町の光を避けるようにして暗い森の中でひっそりと僕は暮らしていました。
最後に生き血を飲んだのはいつだっただろう。
僕の種族は飲まなくたって、生きていけるみたいだけれども常に何かに飢えていた。
僕はこの体を呪って、何度も死のうとした。
でも、どんなに血が滴って意識が薄れたってそれは眠っているだけでいつのまにか
また僕は目を覚ます。生まれ変わった、なんていう表現ではない。ただ目を覚ましただけ。
でもそのたびに、僕の記憶はぼやけていって僕は大事なことを忘れている。
一人が嫌で嫌で、ずっと誰かと一緒にいたかったのに僕は町の人間からは
「悪魔の子」と呼ぶ。
町に出ればいじめられたからもう町には行きたくない。
他の町でもきっと僕はいじめられてしまう、そう思うとここから出られなかった。
吸血鬼には種類がある、と僕を吸血鬼にした正真正銘の悪魔は言っていた。
しかしその悪魔も、もう僕の記憶には薄いが知識は残っている。
僕の種類の吸血鬼は、光には幾分か丈夫で、血を飲まなくても平気と言う人間に一番近い存在の吸血鬼。
それでも人間として生活するには厳しい体で、一度人間に噛みつけばその人間を吸血鬼にする能力がある。
他の吸血鬼とは違うところ。だから、血を飲んだら絶対に殺さなければならない、それが掟。
血を飲まなければ平気、とは言ったが血をずっと飲まなければ血は固まり、自身を切り裂けば血は砂となり
動くこともままならないのでやっぱり少しは血液をとらなければならないがそれは人に限らず動物でもよかった。
僕はこの場所を離れないし離れがたい場所であるが同じ場所に定住する吸血鬼というのも
僕の種類ぐらいで、後は適当に餌を求めてフラフラとさ迷っているとか。
ほかの種類の吸血鬼とはわかりあえないし、ましてや人間は僕を見ただけで嫌悪する。
人間と変わりない体でここまで嫌悪されるというのは、僕はこの場所に居続けすぎたからだ。
町の人間のほうがきっと僕のことをよく知っているだろう。
それでも僕の居場所はここにしかなくて、ここから出て行くなんてできなかった。
町の人間も、一応は僕を恐れてくれていて出て行けなんて言われたことはない。
平穏な生活…というよりは人々から隠れて孤独に浸る毎日。
何度命を絶ったんだろう。どれだけの記憶を僕は捨ててきたんだろう。
何度、ただ目覚めたのだろう。
傷は治り、何食わぬ顔で空は朝を迎えて昼になり、いつのまにか日が落ちている。
「悪魔の子」なんて言われながらも僕は今まで一度だって誰かを吸血鬼にしたことはない。
せめて自分は心優しくありたいと、これ以上嫌われたくないと思っていた。
でも優しい存在でありたいという願いも、僕が嫌われているために自己満足でしかない。
ただ、人が森を通る時に迷ったらそっと力を貸す程度。
ここは、この町と隣の町とを繋ぐ近道にもなっているから、ふとしたときに人が迷い込むのだ。
まあ、だれも僕のおかげで森を通ることができただなんて思っちゃいない。
いつかこの森が優しい森になれればな、僕がいるからこの森には悪い噂しかなくなってしまったから。
そう思い続けてもいっこうに良い噂なんて僕の耳にははいってこないのだけれども。
善人でありたい、ただそれだけの願いは人間には聞き入れてもらえなかった。
今日も、ぼんやりと小さなウッドハウスの外で唯一の趣味である寄木細工を燃やしていた。
やることがないから、その辺にある木で色々な物を作るのが日課となって今ではずいぶんと量が増えてしまったので
こうして燃やしているのだ。
「ずいぶん、増えちゃったな。」
炎に包まれる寄木細工たちをながめながら今何時かな、なんて考えていた。
考えたところで時間なんて僕には無意味であることは知っているのについつい考えてしまう。
「おい、何してんだよ!」
びくりと肩が震えた。僕の方をみて、僕を呼ぶ人が目の前に立っているのだから。
「え…え…?」
僕の姿を見ても、何も思わないのだろうか。
嫌いにはならないのだろうか。
唐突に声をかけられ言葉なんて忘れてしまって上擦った声だけが口内で反響する。
「すごい奇麗なのに、もったいない。」
そういって僕の方に歩み寄ってくる。
「な、来るな!」
怖くなって、思わず僕は身を引いた。
「は…?何か…邪魔だったかな俺。」
ぽかんと、不思議そうな顔をしながら僕の方を見る。
大人っぽいその少年は頭を掻きながら少し黙った後でこう言った。
「ごめんな。驚かせたよな…。」
すぐに飛び出した謝罪に僕は目を丸くした。
この人はどういうつもりなのだろう、僕が嫌いじゃないのかな。
頭の中で反響する目の前の少年の声に僕はふるふると頭を横に振ってみせる。
すると少年は笑っていた。
「よかった。あ、俺はシャズィ・K・ケイルっていうんだ!ここに引っ越してきたばっかりで…
ずっと海の近くに住んでいたからこんな大きな木がたくさんある森みたらはしゃいじゃってさ。」
照れ笑いしながらそっと僕の隣に座った。座った後で「座ってよかった?」と聞いたので
僕は困ったように笑いながら頷いた。
そうか、この子は僕が皆から嫌われているって知らないのか。
だからこんなにも優しく僕に接してくれるんだ。
納得すると急に僕の中で喜びがあふれだしてきた。心臓が痛いほどに鳴り響く。
「ねえ、名前は?何ていうの?」
「えっと…。」
名前、ずいぶんと呼ばれなくなったからすぐに思い出せなく黙り込んだ。
「名前は…アズサ…。」
「へぇ、良い名前じゃん。」
にこりと笑ってシャズィはこう続けた。
「なあ、今燃やしてるのもその辺においてあるのもアズサが作ったんだろ?
俺にも教えてよ。」
「なっ…え?でも…。」
どうせすぐに来なくなる。あの森の話を学校なんかで聞いてしまえば君は来なくなってしまうだろうに。
「あんたが俺の最初の友達だ。いいだろ?俺だって手先には自信があるんだ!だめか…?」
友達、なんて言葉に浮かされて僕は正常な判断なんてできなかった。
気づけば、ぼーっとしている僕の頭とは裏腹に体が勝手に頷いていた。
「やった!じゃあ、今は引っ越しの手伝い抜け出してきちゃったからなあ。明日また来るよ!」
シャズィという子は笑顔を絶やさぬまま、かなり強引に約束を置いていき嵐のように帰って行った。
「変な子…。」
いつのまにか日は消えていた。黒ずんだ作品たちは僕を見ていた。睨んでいるようだ。
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