「俺とKは、仲が良かった。というか、何かとKは俺にくっていてきた。

普通の学校だったから変わり者のKを良く思わない奴ばかりいた中で俺は普通に

接していたせいだろう。気づけばKの世話係だ。」

「でも俺は昔からKが苦手だった。単純で何でも信じるとこ、

何を言っても理解しないとこ、とにかく俺はあいつを避けていた。

だけどそんなあいつに<恋人>ができた。救いだった。」

<恋人>にばかりかまってもらうようになって俺はやっと

あいつの世話役を降りて清々した気分だった。」
「でも、あいつはまた戻ってきた。俺のところに。」
「理由を聞けば<恋人>が怖いと言う。

だから、また俺のところに来た。知ってたか?あいつ、林檎が好きなんだ。」
教師はベッドに転がる林檎を手にとって何度か天井に投げた。

何度目の着地で教師は再び林檎に目を向けた後、牧師に投げた。

牧師は林檎を受け取ると不思議そうに眺めて教師をみた。

その問に答えるように牧師はこう続けた。
<恋人>はあいつの好物に毒を塗った。

毒と言っても死ぬようなものじゃないし毒性も弱いらしいから

気分が悪くなって嘔吐にみまわれるだけだそうだ。」
「でも、何度もやられたらどうなる?いつのまにかKは、林檎を見るだけで嫌悪感を

露にするようになった。当たり前と言えば当たり前なんだけどKは人を疑うことが

できないからどんなに体が嫌がっても口に運ぶんだ。いつしか、Kは林檎の木になっている

林檎を全て取っては捨てるようになった。

見つかり次第、気が触れたってだけでマルディーヌの精神病院、精神療養施設に移送された。」

「俺は恋人が気になった。だから、Kに聞いたんだ。誰?って。」

ふうと教師はため息をついた。

Kは教えてくれなかった。だから、<恋人>はみつけられなかった。」

<恋人>はどこにいる?一体誰なんだ?俺は、今までKが邪魔な存在でしかなかった。

でも、あんな病院でもその<恋人>の話をするんだ。

無邪気に、自分を傷つけるだけの<恋人>をまだ愛しく思うKが哀れだった。

でもそれ以上に俺はKがそこまで思っている<恋人>が気になり始めた。」

「俺は、<恋人>を探すことに必死だった。ゲームみたいに、謎の多い<恋人>

俺は考えてはいけない、<恋人>を見つける最も簡単な方法を知っていた。」

「でも、それはしてはいけなかった。その方法は馬鹿馬鹿しい限り。

だから毎日のようにKを見舞った。いつか恋人に会うんじゃないかって思いながら

・・・でも会えなかった。Kのことなんて、どうでも良かったんだよな、俺は。」

「でも、あの時は<恋人>がいたんだ。いつものように見舞いに行けばKは泣きじゃくっていた。

近くにはかじった林檎と棚には篭に入ったたくさんの林檎があった。」
「こんな嫌がらせをするのは<恋人>しかないって思った。その頃のKは相変わらず俺には笑いかけて

くれたが、<恋人>がきて以来何かと赤いものを嫌がった。」
「俺は、どうしてこんなに<恋人>に会いたいのか、わからなかった。

でも、話がしたかったんだと思う。何故<恋人>?何故こんなことを?

あの時は実体のない<恋人>のことばかり俺は考えていた。」


「あの時は雨が降っていた。俺は、いつものように見舞いに行くと・・・どういうわけか

Kは拳銃を持っていた。<恋人>がくれたプレゼントって嬉しそうに言うんだ。

俺はそれを取り上げた。見れば弾が入っていた。いつ発砲してもおかしくはない状況だった。

Kは<恋人>からもらったプレゼントをとりあげられて酷く怒っていた。」

Kは、ずっと前に壊れていた。信じるものが<恋人>しかないみたいで怖かった。

俺がもっと、最初からKのことを思っていればKのことを好きでいたらこんなことに

ならなかったのにって思ったんだ。」

 

「雨はさらに強くなって、今みたいに叩きつけるような雨だった。」

 

「俺は、ここから抜け出さないかと言ったんだ。もしも一緒に来てくれるなら

この銃を返すって、いった。そしたらKは俺に従った。」

 

Kと、ここ、132号室に泊まった。Kは俺から銃を盗もうと

必死だった。だから、聞いたよ、どうして銃が欲しいの?って。そしたら」

 

K<恋人>に頭を撃ちぬけといわれたって言ってた。意味がわかっていないんだ。

それで人生が終わりになるなんて。俺はそう思った、だから何度も諭した。やめろって。

俺がいてやるから、もう<恋人>は忘れろって、俺は偽善者で目の前で起こる悲劇に

耐えられなかっただけのでまかせだった。」

 

「俺は、そこで思ったんだ。その<恋人>が、Kに自殺を命じたのなら・・・もし俺が

Kを殺したらどう思うだろうって。Kは生死なんてどうでもよかった。このまま時間が

たてばきっと銃を手にとって頭を撃ちぬくのは時間の問題だった。」

 

「なら、俺がこの手で殺してやろう。何の理屈でそうなったのかわからなかった。

でも、その時は<恋人>の存在に傷をつけてやろうとしていたんだ。俺は迷惑だと思いながらも

好きだったのかもしれない。傷ついて壊れていくまで見続けといて何も出来なかった自分が

本当に情けなくて、せめて最期は自分が・・・って思ったんだ。」

 

Kを押さえつけるのは簡単だった。俺は、この部屋でKを殺した。銃声は、ちょうど雷に

かき消された。俺はここで殺してまた精神病院に屍体になったKを戻した。」

 

「殺すのは、簡単だった。ただ心臓を撃ちぬくだけ。俺は、ただただ罪悪感でいっぱいになった。

すぐにでも警察に行きたい衝動に駆られた。でも、<恋人>が姿を現さないんだ。いるはず、もし

いるなら俺は<恋人>をこの目で見て殺してやりたい。そう思った、今日が・・・その日だよな。

命日に、墓参りにいけば<恋人>に会えるんじゃないかって思ったんだ。会えなかったら潔く

警察に行く。それで俺は罪を償うんだ。」

 

 

話し終わって、ふうと一息ついて教師は牧師のほうをちらりとみた。

牧師はあの機嫌のいい笑みは浮かべていなかった。

 

偽物