「<恋人>ができて以来、親友の口から<恋人>の話ばかりだったです。」

そうやって話し始める僕に対して先生は依然として聞きたくなさそうな表情で

下を向いていた。

 

「結局、<恋人>は誰かわかりませんでしたし本当はいないじゃないかなって

思っていたですよ。」

 

「そんな、いるのかいないのかもわからない<恋人>の話を何年も聞いているうちに

ついに僕は神学校を卒業しました。卒業だけでは牧師にはなれないので後は町の

牧師館で雑務をこなしながらの生活。そうなれば親友の<恋人>

もわかるじゃないかなって思いました。もしもいるならの話ですが・・・」

 

「親友は相変わらず、<恋人>について喋ります。ほとんどは同じような話なんです。

一緒に喋ったとか、一緒に歌ったとか、そんな感じです。僕はそれを聞くことが日常の

一部のように思えてきて、特に気にならなくなりました。」

 

「でも、あるときに一切<恋人>の話をしなくなりました。その代わり<先生>が

でてきました。僕をみて、言うです。<先生>としゃべるとか<先生>と歌うとか。」

 

「何日か<先生>の話をした後、親友は何も言わず僕の元からいなくなりました。」

 

「一週間、どうしたものかと僕はいろんな人から居場所を聞くとやっとわかりました。」

 

「恋人も、親友の居場所も・・・。何があったのかも全て。親友の口から聞きたかったのに

何も知らない僕を哀れんでか1人が僕の親友について話すのです。」

 

「悲惨でした。僕は、何年も居て全然知りませんでした。」

 

「親友の居場所は、精神病院でした。すぐにその病院にいって医師に尋ねるとただ一言だけ

心が壊れてしまったと、医者がいいました。」

 

「久々に、親友に会うと衰弱した様子で僕のほうをみてこういいました。」

 

「<先生>に会えて嬉しいって。笑いながらいっていました。」

 

「その後です、親友は僕にいいました。死にたいって。」

 

「その意味がわかっているのかも怪しいわけですが、思い悩んでいることだけは

はっきりとしていました。だから、僕は親友を救おうと必死でした。気を引こうと

がんばりました。」

 

「でも、親友は何も見てはいませんでした。最終的に、どんなに僕が頑張っても

<親友>でもなければ<先生>でもなくなって、親友にとって僕はどうでもいい

存在だっただなあということを理解しました。」

 

「僕は見ました、顔はみていないですが楽しそうに喋る親友とその恋人を・・・。

初めて、嫉妬というものが頭を支配する感覚に襲われました。本当は顔もみてやろうと

思ったですが見る勇気が僕にはありません。自分と比べて、傷つきたくなかったです。

僕は怒りが制御できなくなっていることに気付きました。その矛先は、親友でした。」

 

「雨の日です。こんな感じで、気が狂いそうになるほどの叩きつけるような雨の音が

聞こえてきました。その時の僕は本当に気が狂っていました。脳内で、親友の本心ではない

言葉が何度も反響していました。」

 

「僕は、最後に聞きました。最も、わかりやすい言葉で、尋ねたかったです。」

 

「僕のことは好きかどうかって、尋ねました。」

 

「・・・でも親友は答えてはくれませんでした。その次にこう尋ねました。」

 

「本当に死にたいの?って、残酷な言葉を吐きました。」

 

「そうしたら、親友はうんと頷いて僕を見ました。」

 

「僕は誰?と聞けば少し考え込んで親友はこういったです。」

 

「<悪い人>って。」

 

「頭の中で、何かが弾けました。あれだけ想っていたはずの何かが

全て消えうせて僕の心はぽっかりと空いて数秒前の音だけが

虚しく響いていました。」

 

「僕は親友の首に両手を添えて力をこめました。」

 

「親友はやっぱりといって笑っていました。」

 

「耳障りな雨音と、癇に障る笑い声に僕の力はより一層強くなりました。

親友はじたばたと抵抗を始めました。そして近くにあった小さな時計が

勢いよく壁にぶつかり落ちました。」

 

「親友は、あっけなく死にました。落ちた時計を拾おうとしたらその時計は

壊れていて、ちょうど132分を指していました。生きた最後の時間

のようにも感じて、もう息のない親友をみてなんだか物悲しい気分になって

やっとのことで現実を把握したら今度は怖くなって逃げました。」

 

「運がいいのか悪いのか、あの町はちょうど親友が入院したときから合併が

始まり、消えてしまいました。なんだか親友との思い出と共に全てが消えてしまった

ようなそんな感じでした。」

 

「僕は警察には行きませんでした。理由は、簡単です。気になったですよね<恋人>が。

でも罪悪感は消えません。雨の日は特に、眠れなくなるほど僕は親友に追い詰められていました。

本当は殺していないじゃないかなんて淡い幻想を抱きながら、なんども布団をかぶります。

でも、眠れないです。だから、僕は親友に許しを請うように・・・あの墓地に訪れようとしたです。

もしかしたら、会えるじゃないかなって・・・その<恋人>に。」

 

全てを話し終えてすっきりしたなんて大間違い。

ただただこの空気が重苦しい。

僕の話を聞いた先生はもっと気分が良くないようだった。

 

 

さてさて、ゲームの勝敗はどうなんでしょうかね?

妄言