離れの家につくと、少女が愛想のいい笑顔で迎えた。

しかし牧師と教師が揃って同じ服装をきていることに、少女は少し驚いた様子だった。

「あら、2人とも喪服なんて気味が悪いわ。行き先はマラディーヌの墓地だったのかしら。」

廊下を進みながら、少女は慣れた口調で言う。

「そうみたいです。聞いてくださいよ、僕たち誕生日も同じなんですよ。」

クスクスと牧師はこの偶然を笑った。

「あら、同じ部屋に同じ誕生日なんて、2人の名前はどうなのかしらね。

2人とも、同じ偽名を使ってくれてるんだけど?」

そういうと、2人はお互いの顔を見合わせた。

「あの町の人間、ですね?」

「だな。」

「あの町・・・ね。全く、エドワード・シャウクロスなんて名前を久々に見たわ。」

言いながら、広い食堂のような部屋に着いた。

「どうぞ、食べてよ。」

「貴方が作られたんですか?」

牧師は驚いて少女のほうに首を回した。

一人で作るにはあまりにも量も内容も多く2人とも圧倒されていた。

「あぁ、私ともう1人、メイドも手伝ってくれたの。もう帰っちゃったけどね。」

「この雨の中?」

「ここに何十年もいたら、槍が降っても帰れるわ。

食べましょう、冷めちゃうわ。」

笑いながら、少女は言った。

 

三人が席についても、喋るのは主に牧師だった。

少女は牧師の話を楽しそうに聞いて、教師はそれに愛想笑いを浮かべていた。

牧師の話は自分自身の話ではなくここらにある町の話だった。

そして当然といえば当然だが町にちなんで少女はさっきの話を戻す。

「ねえ、何故あの町の人間は皆揃いもそろってシャウクロスなの?」

「あの町が、シャウクロスという名なんですよ。ねえ、先生?」

そういって牧師が教師をみる。その問いかけが以外だったのか教師は

驚いたようにびくりと肩が動いた。

「あっあぁ・・・、男性がエドワードで女性がシャーロット。どうしても必要な

時にはそう名乗るんだ。」

「でもその町はなくなったのよ。別に、名前を言い合ってもいいじゃない?」

少女は無遠慮にそう言った。

すると、「そうなんですがね。」と残念そうに牧師は肩を落とした。

「やっぱり。抜けませんよね、習慣は。」

そういって、また教師に目をやる。教師は何も言わなかった。

「不便ね。そういえば昔来たあの町の住人が言っていたわね、親密になれば相手に名前を教えると。

家族と親友と恋人以外には職業しか言わないの?」

「そうですね。あの町にいたときは、子供の頃簡単に親友は作れました。

だから、名前は結構知られましたし知っていました。不思議なことに大人になると気になるのは

どんな職業か、どんなところにすんでいるかのほうに興味がいってしまうのです。あの町の住人は

特殊な職業が多かったですしね、職業が名前のようなものでしたよ。」

「へぇ、面白いわ。じゃあ、私もモーテルの主人でいいわよ。」

そう言って笑い、皿にある最後の一口サイズの肉を口に放り込んだ。

 

3人は食事を終え、少女がデザートにと林檎を2人に渡した。

「こんなにしてくださって、何だかすみません。」

「いいのよ。まあ、牧師さんがお腹すいたと言われなきゃこんなことはしませんがね。」

「あははっお恥ずかしいです。でもすごく美味しかったです。」

「林檎は、あの木になってる奴?」

教師はそういうと、窓を叩くような雨の先に見える大きな木を指差した。

「えぇ。パパが育ててたの、美味しいわよ。」

少女はそういう少女の顔はとても誇らしげだった。

「ところで、マルディーヌの墓地なんて珍しいじゃない。だってあそこは・・・」

「そうです。精神病の患者が葬られる墓地です。あそこに、僕の名前を知る人間がいるんです。」

「恋人?」

少女がわくわくしながらそう聞くと、牧師はにこりと笑ってこう返した。

「親友ですよ。先生は?」

教師はまだ木を見ていたようでその牧師の言葉に少し戸惑っていた。

「恋人なの?お墓参りの相手」

「・・・そうだな。」

少し教師は口ごもりながらそういうと少女はにやにやと「恥ずかしがらなくてもいいのに。」

といって教師を茶化した。

牧師のほうはその教師の言葉に

「あ、初めて違いましたね。」

と少し残念そうな声をあげて牧師は言う。その様子に教師は作り笑いを浮かべた。

 

「よっぽど親しい人だったのね、2人とも。マルディーヌなんて、もう科学者に墓を

荒らされてるかもしれないのに。そこに屍体がなくてもいいものなの?」

相変わらず、少女の言葉は無防備で事実だけを先ほどから2人に突きつけてくる。

 

「いいんだ。あの場所に行きたいだけだから。」

ぶっきらぼうに教師は言い、さらに雨の激しさを音で感じながら

「まあ、この雨じゃまだ来るなって言われてるのかも。」

とつけたして暗い声を出した。

 

「この雨は明け方には止みますよ。きっと・・・ねえご主人?」

「どうかしら。雨が止まなかったらもう一泊していけばいいわ。

明日には何人か帰るから空き部屋を先生に貸すわ。」

「いや、帰るよ。明日も降っていたら、家にね。」

「そう。」

 

「俺は、そろそろ戻るよ。夕食、すごい美味しかったよ。ありがとう。」

そういって教師は立ち上がると続けて牧師も立ち上がった。

「じゃあ私も帰りますね。林檎、有難うございます。」

「いいのよ。おやすみなさい。」

少女はそういって笑って時計を見ると「あら、いけない子になるわ。」などといって

2人とは反対側にある部屋へと戻った。

 

大きな時計は13分を指していた。

 

 

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