ある男が車で遠出をしたときだ。

ちょうど雷雨に見舞われて進むべき道が土砂に流されていた。

いや、この状況でそう思っただけかもしれない。

舗装されたような道路ならばこのような惨事にはならないだろうが男が通った道路は

ひと気も無いし、使われていなきゃ壊れていたって気付かない。

もしかしたら、元々その道路は行き止まりだったとも考えられる。

 

男にとっては、この道を行くのは久々で軽い気持ち、近道のような感覚だったので

その様子に酷く落胆した。

 

戻るにしても、夜も更けているうえにこの雷雨。

文明が進んでいるのは都会だけ、田舎には街灯などはない。
迂闊に進めば、森に迷い込みさらに厄介になることは明らかだ。

仕方がなしに地図を取り出すとすぐ近くにモーテルがあるとのこと。

そのモーテルにも昔お世話になったことを思い出す。
地図をおいて、酷くなるばかりの雨にイライラしながらも車をモーテルへと動かした。

頼りの車のライトはちかちかと調子が悪い。

ため息がでた。

 

それでも行きなれた土地ということもあったせいか雨で視界も悪く光もほとんどない状態でも

モーテルを発見することが出来た。

ただし、見つけたときのモーテルは看板に威力のない光を放つのみ、中は暗く営業していないのか

というほど静かに感じた。

 

男はとにかく、車からでてモーテルの入り口へと急いだ。

入り口まで行くと、かすかに中の光が見え、ドアはすんなりと開いた。

それに少し安堵すると視界に入ったのは年端もいかない少女だった。

「いらっしゃい。」

店を構えていたのは、見間違いではなくあどけない少女。

「・・・部屋はあるかな。雨で道が塞がれてしまったんだ。」

「あぁ・・・生憎そういうお客様がいっぱいいるのよね。

相部屋でもいいのならご案内できるんですが?」

少女は大人びた口調でノートにうまった名前をみせながら
次の白紙のページに名前を書くように促す。

この雨では、他に泊まるところを探すのは難しい。

たった一日だけだと、割り切ったのか男はこくりとうなずいて名前を書く。

「じゃあ、132号室へ。」

にこりと少女は笑って鍵を渡した。

「鍵は二つあるんだ。」

「うちのモーテルではこういうことがよくあるんで、必要なのよ。」

 

132号室は階段を上がってすぐのところにあった。

先客は嫌な顔をするだろうか、などと思いながら俺はドアを叩いた。

「はぁい・・・」

ばたばたと、部屋の中で音がする。

がちゃりと音を立てて、ドアノブが回った。

「こんばんは。」

ドアから出てきた男は、喪服姿で俺を迎えた。

「今日ここに相部屋をさせてもらおうと思って、初対面で悪いんだけどいいかな?」

緊張のせいか上ずった声になりながら俺がいうと、男は愛想よく微笑んだ。

「えぇ、僕はむしろ誰かと居たかったところです。雨の日はどうも苦手で。」
緊張を解くように笑いかけ、部屋に招き入れられる。男のほうも今着たばかりなのか
ベッドに荷物が置いてあるだけだった。

「そう・・・よかった。よろしく。俺はここから少しはなれた町で教師をしている。」
そう俺が言うと、牧師は少し驚いた表情をしていたがすぐに笑顔に戻った。

「僕はこの先にある教会で牧師をしています。あははっ、お互い<先生>ですね。」

男は物腰柔らかな、牧師といわれれば納得してしまうほど優しそうな表情を浮かべていた。

年は俺よりも数歳上には見えるがわからなかった。

「貴方がこの部屋の人でよかった。」

「僕も、そう思います。今から、ご飯を食べに行くところなんですがよければどうですか?

受付にいたあの女の子が作ってくれるそうです。」

「へぇ、あの子は手伝い?前来た時は・・・。」

「亡くなったそうです。今はあの子1人でここを経営していますよ。
離れに家がありますがあの子
1人だけです。」

「淋しいだろうな。」

「だから、一緒に夕食をご馳走になろうかと。
あ、ただ空腹でご飯が食べたいだけの言い訳ですかね。」

そういって恥ずかしそうに牧師の男は頭をかいた。

「牧師さんは面白いな。」

「フフッ、そうだ貴方のことは先生とお呼びしていいですか?」

「俺より年上な気もするんだけど・・・。」

「何歳ですか?」

28。」

「僕もですよ。」

「・・・同い年か。」

牧師は、「そんなに老けて見えますか?」と笑いながらいう。

そしてこう続けた。

12月13日に生まれました。」

そこまでいうと、思わずどきりとした。

「俺も・・・だよ。」

同じ年齢に同じ誕生日、随分と符合するものだと俺は感心した。
牧師のほうも少し驚いたように俺をみていたが

すぐにあの朗らかな表情に戻る。

「気が合いますね。他にも何か共通点があるかもしれませんね。

あぁ、よく見たら服も同じだ。墓参りですかね。」

牧師はそういって機嫌良さそうに口元を緩ませて「おそろい」と言った。

 
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