トトは、家にたくさんの人間を招いた。
その頃は仕事をしていないが両親の遺産だけで生涯平凡に暮らすことは楽にできていた。

昼は愛想のいい笑みを浮かべて、趣味だと言う料理作りに励んでいた。

近所の奥様方はトトに好意を抱き熱視線を送るなんてことはざらだった。

そしてそんな奥様方につけこんで金を貢がせることで収入を増やした。

言葉巧みなトトは、相手を楽しませることも忘れなかった。
幾人かは騙されたと知っていながらもトトを許さないといった人間はいなかった。

だからトトは詐欺容疑で、逮捕はされていない。

 

「実に平和な人たちです。でも、僕はもっとすごい詐欺もやった。」

思わせぶりな口調で、俺にこういったことがある。

「もし司法取引が通じるなら、是非してほしい。多分どこかの課が追いかけている

マフィアと繋がっているよ。」

にっこりと笑うトトは計画的な笑みを浮かべていた。

「条件は?」

実際、俺には取引の権限がないので、条件内容だけ上司に伝える予定で訊ねた。

どうせ釈放にはならない。せいぜい、死刑が延びるぐらいだろうと思った。

「少し死刑を早めて欲しいんだ。できる?できれば10月10日。三ヶ月後だ。」

「…は?何で?」

俺が呆れたような口調でいえば、トトははにかんだ笑みを見せた。それからもう一度

口を開いて「僕の条件は言ったよ。」と小さい声で言ってからは口を頑なに結んだ。

 

仕方がないと、俺が上司にトトのことを話せば上司はやけに寛大で二つ返事の承諾。

取引はうまい具合に成立した。まあ、釈放するわけでもなかったし、死期が早まる

ことは何よりも増える囚人の居場所が減るから都合が良いようだ。

ここでもまた、俺たちにとって有利で「良い死刑囚」と言えるかもしれない。

 

俺がトトについて調べている期間は短くなった。

後少しでこの男ともお別れ。

それが腑に落ちない。何を企んでるんだろうか、脱獄でもする気なんじゃないのかと

俺は色々なことを考えていたが何も起きやしなかった。

話す機会はたくさんあった。

増えれば増えるほど、愛着を持ちそうな自分が怖くなり途中で放すことも放棄した。

気持ち悪いほど、このトトという男は俺の心情を理解していた。

俺はいつだって犯罪者に情なんか持っちゃいない。

それなのにトトは俺の思考を乱すことばかり、囚人であることをこちらが忘れそうなほど言葉が巧かった。

 
あいつは、生まれて初めて、俺のコンプレックスを見抜いた男だった。

両親も妻子も死んで、一軒家で自由気ままな生活を送っていたトトは人生を狂わせる人間に出会った。

深夜にトトが散歩をしていた時、女の悲鳴が聞こえた。

不思議に思って悲鳴な近くにまで行けばナイフで何度も刺される女と刺す男がいた。

その男こそ世間を騒がす連続殺人鬼だ。

恐怖で固まり、見つからないように逃げ出すのが正常かもしれない。

その女性を助けようと声をあげればヒーローだ。例え助からなかったとしても。

しかしトトの反応は違った。

一目見てその殺人犯が気に入ってしまったのだ。

「生まれて初めて手に入れたいと思った。」

と、語っていたが、そいつの顔が美形なわけでも性格が素晴らしいわけでもない。
そいつのどこに魅力を見出したのかさっぱりわからない。

血の海の現場で、殺人鬼に出会ったトト。殺人鬼はトトの顔をみたわけではない。

 

トトは殺人鬼を執拗につけ狙った。

後をつけて、全てを知ろうとした。

トトの部屋は気味が悪いほどたくさんの殺人鬼の顔写真に死体の写真で埋め尽くされていた。

ただ殺人犯の居住場所を突き止め警察に報告することが目的ではなく手に入れるためだった。

殺人鬼もまた、どうやらトトのストーカーには気づいていたようで警察の仕業だと思っていたようだ。

トトは殺人鬼の追いかけるうちにどんどんその殺人鬼を盲目的に愛し続けた。

その愛はそいつが殺人を犯せば、殺人シーンまでカメラに収め、殺される人々に嫉妬するほどだった。

そしてトトは、この殺人鬼に殺されたいという願望をもって殺人鬼の部屋まで訊ねるのにはそう時間は掛っていない。

 

全てを知っているトト。何も知らない殺人鬼。
訝しげに見つめる殺人鬼を丸めこんでストーカーであることを自供すれば殺人鬼だってたまったものじゃない。

殺人鬼も、かなりの偏執狂で決まった特徴のある人物しか殺さなかったし殺す気が起きずただただトトに怯えていた。

トトは、煮え切らないこの殺人鬼にどうやら怒りを覚えたようだ。

計画通り、言葉巧みにこの殺人鬼の心を開かせたがその心は残忍なものではなかったようだった。

トトは、殺されないことに苛立ちを覚えた。

殺人鬼はトトの前では従順だった。
友達のように接したトトに媚びるように笑顔を作って知られている殺人を隠したがった。

トトも警察に通報することなど考えていない、殺されるために取り繕ったが殺人鬼は女性しか殺さなかったため
トトを殺すなんてことはまずありえない話だった。

 

殺人鬼を愛していることに変わりはなかったが、計画が崩れることに焦り始めた。

殺人鬼も、そう簡単に殺人を止められるわけもなくトトに内緒で殺人を繰り返していた。

国中を恐怖のどん底に陥れておきながら、本人は劣等感の塊でトトに気に入られようと必死だった。

トトは殺人を繰り返すこの男に怒りを覚えた。

「何故殺されないんだ?」と。

彼の中で人生は決められていた。

 

しかし、人生はなかなか終わらない。

 

殺人を犯した後の男はいつだって愛想を振りまいて何食わぬ顔で帰宅する。

その日もそうだった。

トトはそれを見て苛立ちが沸点に到達したのだろう。俺にはわからない怒りなんだけど。

殺人鬼が愛用していたナイフで何度も色んなところを刺した。

叫び声が響く、生きたまま目を抉りだし力任せに腹を裂く。

「殺人鬼の中身も変わらないね。」
なんて笑いながら臓器を取り出してパズルのピースとでも思ったのか目に埋め込んだり口にはめたりして遊んでいた。

最後に男を燃やす。断末魔を聞きながら、トトは電話を持つ。

「今、人を燃やしたから早く来て。」そういって、トトは姿を消した。

 

見つかった男は酷い姿をさらしていた。

 

 
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