哀れな男が連続殺人鬼だと知ったときはまた国中が驚いた。

 

そして、素晴らしいタイミングでトト・ギャントは自供した。

俺もテレビで観ていた。聡明な男がテレビのインタビューを受けるたび

にっこり笑ったんだ。舌青くなる飴を舐めながら口を開く。

 

「その男のことなら、僕が一番よく知っています。皆さんがいかに彼にご執心であったかも
よく知っています。連続殺人犯を殺した犯人、さぞ怖いでしょうがご安心ください。
僕だけがこの国の不安から解放することができるのです。
なんですか、その表情は?信じていないのならば証拠を見せるので僕の部屋に来てください。
このテレビ局は運がいい、きっと高視聴率ですね。
時の殺人鬼を捕まえたうえにカメラに収めることができるんですから。」

 

あれ以来、トト・ギャントを見ない日はないのだ。

何度も、何度も狂ったようにテレビに映るトト・ギャント。

やらせのように見えて、滑稽な真実。

トトはカメラの前では常に笑っていた。そして、犯人しか知り得ない情報の数々を

テレビショッピングの司会者のように解説していく。

警察だって、これをみて驚いた。

 

そして、その後彼を逮捕した。

 

彼は「来るのが遅いから、カメラの前で人を殺しそうでしたよ。」と笑っていた。

愛想良く、カメラに手を振ってパトカーに乗せられた。

 

そしてトトは取り調べの中でたくさんの秘密を取引した。

トトはいたって温厚だった。

どこにいても、トトの存在は異彩を放っていた。

彼が喋ると屈強な男すら静かになる、暴力的な男すら彼の前では小首をかしげている姿を

目撃した。

 

トト・ギャントは誰にでも愛された。

愛されるために生まれてきたといってもいい。

人間に生まれて最も恵まれた存在だろう。

そんな存在を俺が殺すのだから、俺は一体何なんだろうか?

 

「俺はお前が気持ち悪いと思う。あんたさ、何で死刑を早めるようとしてるんだ?」

「署長さんが言ってたよ、何でもここは死刑が多いらしいね。収容しきれずに困っていると。
僕が早く死ねば、いい話だろう。」

「そうそれ、偽善っつーか、あんたは…何なんだ?俺はあんたを殺すよ。
連続殺人鬼もできなかったお前を殺すんだ。」

「処刑人さんは気に入らないみたいだね。何が気に入らないのか、聞こうかな。」

「全部だ。お前は、皆を騙している詐欺師にしか思えない。」

「だますとは?処刑人さんが騙されていると、目を覚まさせたところで彼らは気付くかな?憤るのかな?
騙されることは快感と同じだ。不快に思うのは、騙すほうのせいだ。処刑人さん、知ってる?
人って、正直な人間が一番大嫌いなんだ。でも、皆嘘つきは嫌いだという。ほら、嘘だ。
もうここから人は嘘をついている。矛盾を解消するには一番、相手に感じさせなきゃいい。
あぁ、言葉がまとまっていない。ごめんね、つまりは君が本音を探ろうとしたって無理な話ってわけ。」

トトはそういうと肩を落とした。

「だって、これが僕の生き方なんだから。」

力なく言う、トトその後俺をみて少し悩んだ末ほほ笑んだ。

 

「死刑まで、後少しだね。」

それから俺はトトを避けていた。

何としてでも殺す前に形を見出したかった。

トトには罪がある。

しかし、俺には詐欺師には見えても殺人鬼にも見えなかった。

 

連続殺人鬼のストーカー、殺人鬼を殺したことさえ俺には怪しく感じているが

だれもとりあってはくれなかった。

本名、経歴、全てが怪しく見えてくるものだ。

事実と真実と言うのはやはり絡み合ってはいるがかみ合っているわけではない。

 

トトは処刑前日、俺を呼び寄せた。

行くつもりはなかったが、急を要するように上司に言われたら仕方がない。

 

「来てくれないと思ったよ。」

呼び寄せたトトは安堵した表情で俺に視線を向けた。

「用事は?」

「君が納得するかはわからないけれど、僕についてこれだけ関心を抱いてくれたのは

君だけだったみたいだからさ、とっておきの秘密を教えようと思うんだ。ただし、僕を殺してからだよ?」

「…別にどうせお前は出られないのだからどちらでも構わないだろう?」

「だめ、約束してくれないと。」

念を押すように言われて俺は押し黙った。

もしかしたら、俺が知りたいこと、つまりこの抑えきれない好奇心を満足させる情報を
トトは教えようというのだ。俺は珍しく頭が冷静ではなかった。

 

「わかった。」

「ありがとう、公務員って何かと文書を大切にするからさ僕もそれに従って…ここにサインしてよ。」

「ん…。」

ここ、とさされたのは封筒で、トトが作った約束文書だった。

封筒の外側に、<死んだ後にこの場所に行くという約束を守る>と書かれていた。

俺はそこにサインをするとトトはほほ笑んだ。

「行くか、行かないかはどちらでもいいよ。それが僕の秘密だ。
約束を守らなければ、きっと君はたどり着けない。」

フフっと笑う。俺は約束に対して敏感な人間ではなかったがトトの魔法にかけられたようだ。

明日殺せば手に入ると思うと、その日に手に入れなくてもいいと思って約束を守ろうとしたのだから。

俺が手紙を受け取ると心底トトは喜んだ。

 

そして処刑当日、俺はトトを殺した。待ち遠しかったのは久々だ。

「俺を殺すのが楽しみって顔してる。」

「あぁ、とても。」

その会話の後、首を切り落とした。

 

最後まで、トトはほほ笑んでいた。

 

殺した後、俺はすぐに封筒を開けた。

封筒には鍵と、場所が記されていたから後始末を終えてすぐにそこに向かった。

自分でも単純だと思ったさ、でも俺は知りたかった。

少しでも、トト・ギャントの実態を掴みたかった。

 

トトが記した場所はロッカーだった。鍵を開けるとそこには一冊のノートがあった。

そのノートを開くと、トトの日記だったようだ。

それをみて俺は頭を抱えた。

 

<運命すらも、僕の思い通り。君さえも、ここに導いてやった。あまり良い気分はしないだろう?だからいったのに。>

 

これほど自身が愚かに見えたことはない。

しかしこの感情をどう表現していいのかわからなかった。

とりあえず、人は彼を天才と言うだろう。そういって、片づけてしまいたいのだ。

 

俺は数日、トト・ギャントが頭から離れないでいる。

ノートはそのまま持ち帰った。

色んな言葉が書かれていた。

 

そして何度も後悔するのだ。

何故、約束を守ったのだろうかって。

殺さなければよかった、とこの俺が後悔するんだ、酷い奴。

わからないことだらけだ。

 

唯一俺がわかったことといえば、

あのほほ笑みは完全に俺を騙したという余裕の笑みだったに違いないということだ。


The End