「この男はまったくどうしようもない不幸ぶりだ!」
こんな言葉を聞けば、真っ先に思い付くのがモギーという男だ。
イギリスにいなかった?こんな名前の人肉にハマった哀れな化け物。まぁ、そんなのとは関係ないよ。

その男、見た目は悪くはないが、不眠症を患って以来目の下の隈とお付き合い。折角の見た目も不健康さが際立つ形になった。

あーあー別に見た目そのものはそこまで不幸と直結してはいない。

問題は中身だ。彼は人を拒むことができない優柔不断で頼りない男だったのだ。

優しい男だと言えばいささか聞こえはいいが裏を返せば誰にでも優しく利用されやすいというもの。

こちら側としては大変扱いやすい従順ペットのような人材とも考えられるが、行き過ぎた従順さは迷惑極まりない。

つまり、何がいいたいかと言うとただただ使えない男だということ。

そんな哀れなモギィーは、イギリスの片隅でひっそりと生まれた。 パパ、ママモギィーのありふれた三人家族。

しかし、境遇は悲惨きわまりない。

生まれた頃から、彼は母親に過度な虐待を受け、父親は母親に暴力を受けた後、電車に轢かれて四肢切断。

醜き変わり果てた父親はそのまま見世物小屋に売られてそれっきり。
とはいえ、それはモギィーがそう思っているだけであって、

実際モギィーは母親に連れられて変わり果てた父を一年に一度、見に行っていた。

 ちなみに父親は頭の犯しな男女に殴られ続けて死亡。2人の知らない事実だがね。

モギィーは、とても大人しい子供に育った。

否、騒ぐことも許されなかったため、言葉が不自由ななったといったほうが正しい。
未だに自身の始末すらまともに出来ずに母親になじられ、殴られるそんな生活。
口癖のように聞かされる母親の台詞はこうだ。

「あんたなんか早く死ねばいいんだ!」

罵声が飛び交う家の中。それでも、母子。腐ってはいるがさぞ神聖な語り種ができそうだ。

外にもあまり出されず、モギィーは母親しか信じるものがなかった。

でもまぁ、いつしかこういうものだと受け入れるようになったのだから図太いものだ。

しかし、母親を信じれば信じるほど母親の行動は悪化した。

モギィーのみてくれが10歳をさ迷った頃、母親はモギィーに売春を命じた。

酷い母親もいたものだ、モギィーは意味もわからず困り顔。

その時からだ、ある日突然知らない男が部屋に入ってきたと思えば性急に始まる気色の悪い行為。
モギィーは本当はそんな行為はしたくはなかっただろう。ただ、嫌だと言う言葉を失っていた。

モギィーに許された行動は受け入れることだけだった。
まぁ、きっと例え拒んだとしても客はこういうんじゃないか?
「ママに打たれたいの?」ってね。

その頃は、まだ拒絶を知らなくてもいい、モギィーにとってはいい時代だ。
ただ、売春を始めて金が手に入ると初めて母親はモギィーに微笑んで抱き締めた。
気色の悪い猫なで声をあげながら「あなただけよ。」と数多の男に囁いたであろう言葉をモギィーに与えた。

その時のモギィーの喜びたるや、俺の口からは語れない。

しかしそれも最初だけで、数をこなしていけばやれ稼ぎが少ないだの、もっと誘えだのと文句ばかりが増えていく。

母親の異常さを知った常連はモギィーを助けようともした。

まぁ、モギィーを散々犯しておいて何を今さらといいたくなるが…

こうして身勝手に罪の意識を感じてさらに対象物をドン底に陥れる奴ってたまにいるんだよね。

モギィーは男たちのいう「助け」が良くわからなかった。

具体的にいえば何故、絶大なる信頼を寄せる母から引き離されようとしているのかがわからないのだ。

それもただただ欲を満たすためだけに来た客人に言われるのだからモギィーは理解に苦しんだようだ。

しかしそんなことを言う言葉を、単語をモギィーは知らない。

そうこうしているうちにモギィーも大人になる。

少年愛者はモギィーから離れていくと再び母親の暴力が始まった。

モギィーは逃げることはなかった。

必死に耐えるだけでそこに感情はなかった。

そのままいけば、きっと母親に殺されていただろう。

だが神様の悪戯か、何なのか運命の歯車とやらは急に別の人間を引き寄せはじめた。

そいつが誰かというと、子供の頃からモギィーに入れ込んでいた身勝手な罪人の1人。

彼はラナグース卿というご立派な貴族。

大層な不良で夜遊びついでに一夜限りモギィーと過ごしただけの男。

何でもモギィーを忘れることができなかっただのありがちな幻想を抱いてラナグース卿はこういった。

「一緒に暮らそう。」と。

拒絶、母親が大切ならばするかもしれない。ただし、モギィーにはそれができない。
「喜んで。」
と、相手を喜ばせる最良の言葉だけを口にする。

ラナグース卿はその言葉を単純に喜んだ。自分は良い行いをしたと勘違いをしてそのままモギィーを連れ帰った。

母親がその後どうなったかって?
それはまた後日。俺がしゃべりたくなったら喋るよ。

まぁ、そんなわけで薄汚い欲一枚の逃避行。

ただ、ラナグース卿は爵位だってある立派な貴族、対するモギィーはおべっかを使っても位はあがらない。

身分違いのシンデレラストーリー、ラナグース卿は片時も離したくはなかったが、家に招くわけもいかず家を一つ差し上げた。

毎夜ラナグース卿が訪れるためだけの部屋。

モギィーは多分、前と何が変わったのか、よくわかっていなかっただろう。

 だって複数が1人になっただけなのだから。

それでも衣食住が揃えばかなりの幸せは手に入る。

ラナグース卿はかなりモギィーを優しく、可愛がった。

モギィーは初めてみた母親の笑顔には遠く及ばない満足感だったが、かなり充足感を得ていた。

「喜んで」「好き」「ありがとう」「嬉しい」なんて、たった四語で構成されるモギィーの世界。
その言葉だけで満足するラナグース卿は教養不足の馬鹿息子として名が通る。

純粋無垢、別にラナグース卿は悪い人間ではなかった。
生涯篭の中に閉じ込めようとモギィーは文句はいわなかっだろう。

快適かどうかなんて、モギィーは判断しないのだ。

「嬉しい?」と聞けば少し笑って頷いて。「幸せ?」と聞いても頷いて、そうして長引く不毛な疑似恋愛。

モギィーもただ受け入れていればいい世界はさぞ落ちついただろうとお思いだろうが、モギィーは未だに母親から離れたことが心にあった。
何故ここにいるんだろうと思ったが、口にできる言葉が少なすぎて誰にも伝えられなかった。
考えれば考えるほど、モギィーは寝付けない日々が続いた。