モリアさんの家から出ていった後、
俺はすぐにすくない情報でモリアさんを襲った人を探した。

しかし髪の赤い男が、意外と存在していて戸惑った。

「まあ全部、殺せばいいか。」俺は見掛ける赤髪を順に殺した。
たまに、女もいたけど赤いほうが悪いよね。

「モリアさんを苦しめる存在はないほうがいいよね。」
モリアさん、怒ってるよね。
だって逃げられなかったら犯されたり、殺されたりしていたかも知れないんだ。
あんなに危険意識が薄いと心配だ。
後、知らない人間がモリアさんに触れたと思うだけで腹が立つし
それを許したモリアさんにも腹がたった。
「俺はまだ、何もしてないのに。」
はぁとため息をつく。
「痛そうな顔、可愛かったなぁ、モリアさん。泣き顔なんて、誘ってるかと思ったよ。」
独り言、回想にひたりながら最後の男を殺した。
赤い髪にたくさんのピアスをつけていた。
なんだかその顔が嫌いで、ナイフでその男の目玉をくり貫いて遊んだり、
鼻を削ぎ落として顔を変えた。
「さっきよりかっこ良くなったんじゃない?」
無口な男の口にナイフを突き立てて俺は自分の住処に足を向けた。

散々ナイフで切り刻んだために身体は血まみれで気持ち悪いと自然と
歩幅は大きくなった。
冷えた空気が顔にあたって気分が悪い。
家路に近づくにつれて朝陽が輝き始めたのも気分の悪さを一任している。

「最初は、ただのファンだったのにな。」
家に戻る途中にぽつりと呟く。

モリアさんが好きで仕方がなかった。 でも、それはただの小説のファン。
言いそびれた、でも言いたくなかったのは事実だ。
だってもうファンじゃないから。


モリアさんが、作家じゃなければと思ってしまう。
「どうして、同じなのかな。」
言ってはだめだ、全てが壊れてしまうと誰かが囁いているような気がした。

本当は、会えるなんて思わなかった。

暇つぶしで、行く当てもなくさ迷っていたときに耳にした名前と町。
足を向けたのが悪かった。

ここは思った以上に荒れた町、最高に優雅で最高に
退廃的な世界を描く作家が住むにはふさわしくない場所。
そこのもっとも汚い酒場にいた最高に奇麗な作家がいた。

あの時会わなければ、よかった。
きっとお互い、いや俺以上にそう思ってるだろうな。

朝陽が完全に出る前に古びた家にたどり着いた。
光が遮られる部屋で、ひっそりと時間をやり過ごすことになる。


モリアさんが居なくなったとき、俺は本当に怖かった。いつもいたから、
具合悪そうにソファーにいるモリアさん。 それなのに突然いなくなった。
あれだけ痩せたまま外に出て悪い人たちに襲われたり、急に具合が悪くなったりしたらと
考えていた。探しても良かったけど、帰ってくることを信じたかった。


帰ったら、抱き締めながらどれだけ心配したかを言ってみよう。
モリアさんならきっと迷惑そうにしながら、最終的には受け入れてくれるんじゃないかなと思った。


でも、実際に帰ってくれば俺にはそんな余裕はなかった。
心配した、すごく心配した、でもモリアさんは俺がいるから家に帰らなかったって、怒鳴った。
どうしたら、どうやったら振り向いてくれるんだろう。憎まれるにはまだ早いよ。
俺だけをみて、俺のことを考えてなんて女々しいことばかり考える。


こんな居心地の悪い町、モリアさんがいなければ1日だっていたくない。



陽が昇った。
朝が来た。
部屋の隙間から光が漏れて、どうしようもなく惨めな時間の到来。


夜になったら、嫌われるとわかっていながら、きっと俺はいつも通りあの時間に部屋に行くだろう。

部屋にある唯一のソファーに横たわって<モノクロ>と印字された本を手に取った。
著者はもちろん<モリア・シャロン>。
捲りすぎたページはボロボロで文字なんてほとんど見えないそれを
夜になるまで俺は繰り返し読み続けた。