夜は、物騒な連中を多く見掛けた。

医者から貰った薬がやっと効いて元気になったというのに、
久々の外は随分と居心地が悪い。
夜中の1時過まで酒場で時間を潰した。もっと居たかったが、
店主に追い出された。金を持たずに来たのだからしょうがない。

うろうろとその辺を散歩。気づけば2時を過ぎていて安堵した。

ここずっと、サハラと名乗る、おかしな男を待っている気がして嫌だったのだ。
だから、明け方までうろついていたかった。

見慣れた街を歩いたところで新鮮ではなく、目的もなく、歩いていた。
まぁお決まりコースの散歩、歩き慣れていた道を何となく歩いた。
ただ、あいつに会いたくなかったから、あの生活から抜け出したかっただけ。

薬を貰い、点滴を打ったはいいが体はまだ痩せたまま。
筋肉も衰え、さっきから何度も足がもつれて転びそうになる。

そんな俺はカモに見えたのか、ひんやりとした空気の中から、
やけに目が合ういかつい顔をした男が気になる。

「そこの兄ちゃん。」
あぁ、声を掛けられるなんて・・・久々に外に出たのにとため息が漏れる。
無視するしかない。俺は頑なに口を閉じて歩調を早めた。
「無視すんなよ。なぁ、金もってない?」
ちらりと横目で見れば、赤い髪に多すぎるピアス、
首に彫られた刺青が街灯の下で光っていた。男は狂気じみた笑みを浮かべる。
気持ち悪いなとまたため息が漏れる。無視をするが、
男は笑ながらまだ付きまとってくる。
「はっ、使えね。喋りたくないならエイエンに口が聞けないようにしてやるよ!」
頭の悪そうなしゃべり方、と思うのも束の間。
地面が擦れる変な音がした。
振り返れば目の前で金属の棒が高く振り上げられている。

驚いた、だが振り下ろされる瞬間、間一髪で俺はその棒から逃れた。
が、すぐによろけて尻餅をついた。

「へぇっ!」
男は偶然棒を避けた俺に感心していた。
そして男はゆっくりと俺に近づいて、俺を押し倒した。
逃げたかったが腰が抜けたらしくむせかえるような気色悪い男の匂いを
かぐはめになった。最悪。腕は押さえつけられ頭の上にあり、体は完全に動かない。

顔が近くにある。
「わぁ、あんた、キレイな顔してんな、痩せすぎだけど。」
「離せ。」
「やっと口聞いた。」
にっこりと相応しくない笑みを男は見せた。
だが押さえつけられた手首に体はびくともしない。
じっと俺の顔を見て、男は楽しそうに話始めた。
「体のなかもきっとキレイなんだろうなぁ、
なぁ、生きたまま臓器を出される感覚って知ってる?
俺は、死体とセックスが大好きなんだぁ。金ないならオモチャになってよ。」
男は子どものように無邪気な顔をした。
「っ・・・ざけんな!!」

逃げなければ、死んでしまう。 いや、最悪死んでからも地獄だ。

そんな俺らしくない思考にとりつかれて俺は無我夢中で暴れると男は
驚いたのか急に力が弱まってそのまま男を押し退けて走った。

さっきまでの自分とは違う。

久々に動いたのに、昔よりも早く走っていた気がする、いや、それも一瞬のこと。

すぐに足がもつれてへなへなと情けなく地面に膝をついた。

幸い、 あの狂った男もいなかった。
ただ知らないうちに立入禁止区域に足を運んでいたことに焦ってまた
立ち上がってそのまま家路に向かった。

ここは貧困街、常に荒んだ地域だが禁止区域は無法地帯もいいところだ。


なんだか散々な散歩だったが久々に運動をした気分は良かった。