「ツグミ、もうこの関係は終わらそう。」
放課後、教室に呼び出して俺はそう告げた。
「そう。」
しぶることが多いツグミだったが今回は簡単に承諾した。

「あっさりだな。」
「だって、樋口くんが付き合いたいってなったんなら私は元々反対してないし?」
確かにその通りだ。結論をいえばそうだったがいらないわけでは決してないと
首を大きく横に振った。
「いや、・・・確かにミイラ取りがミイラになったというか熱が移ったというかだな
・・・ツグミには迷惑かけたし。」
「別にー。いいよ、私は優しいから。でも、きっと樋口くんのそれは同情か哀れみだね。」
「違うぞ!俺は、ちゃんと・・・。」
「そう。なら行く末が楽しみだね。あーあ、別れさせたかったなー。」
鼻歌混じりにツグミは言う。
「ツグミ。俺には結局のところお前が先延ばしにした意味がわからなかったんだが、
・・・何故なのか教えてくれないか。」
「え?」
ツグミは目を大きくした。驚いた後で目線を横に流す。
「そう。ふーん、・・・ねえ、樋口くんはどうして別れたいと思ったの?付き合うから?」

「何だ、一体・・・。そうだからに決まっているだろう?他に何があるんだ?」

「高堂くんも、別れるの?彼女と。」
その言葉に忘れていた現実を思い出す。
「あいつが別れなくても俺は別れるよ。別れなんて俺たちには不要な言葉だろう?」
「ま、何も変わらないね。にしても、一途だねー樋口くんは。好きなのそんなに高堂くんが?」
にっこりと笑うが嫌味も含まれている気がした。
「ば、馬鹿にするな!この答えに行き着くまでに俺は・・・まあいい。」
「よくないよ。」
「いいだろう・・・。俺はあまりそう言うことを言葉に出すのは苦手なんだ。」
「あ、そう。」
不満な表情でこちらを見るが見なかったことにした。
「だが、高堂は誰と付き合っているのだろうか。」
聞けずじまい。聞かないうちに忘れていたが思い出したら気になる。
「さあ?聞けばいいでしょ。」
「・・・いや、なんか聞くのは恥ずかしいというか。」
自分だけが意識してしまっている気分に浸っているとツグミは反比例するような冷めた態度だった。
「うわぁ・・・私はそんなあんたの反応が恥ずかしいよ。」
「すまん・・・。」

「あ、もう行かなきゃ。別れたって言いふらさないとねー。」
「ツグミ。」
「何?」
「もう、決まったか?」
以前は決めかねているといった、それを聞くとツグミは口をつぐんだ。
「世話になったからな、聞くぞ?」
気づくとツグミの顔は俺のすぐ側にあって思わず身を引いた。
「なら、キスしてよ。」
「な!?」
予想外の言葉に俺はツグミの顔色を伺った。
「だめ?別れのキスも。」
ツグミの華奢な手が首筋を撫でた。
俺は一瞬悩んだが首を横に振った。
「それは・・・。」
言葉に渋りながらツグミを見ると、ツグミは大きなため息をついた。
「冗談だよ。バカだなあ、そんな困らないで?」
ツグミは満足したような笑顔を作っていた。

「別のやつを・・・。」
「じゃぁ・・・近況教えてよ。」
「近況?」
「そう。高堂くんと手繋いだーとかそういう報告でもしてもらおうかなあ。」
「それも・・・。」
「嫌なの?」
なんだか、次も拒否するのは躊躇われ小さく頷いた。ツグミは嬉しそうに笑った。
「ありがと。じゃぁ、またね。」
そういうと教室から出ていった。
弱味を握られた気がした。

数分後、高堂が入ってきたときは少し焦った。

「具合でも悪い?」
心配そうに高堂は俺の顔を覗き込んだ。それにも戸惑って俺は反射的に身を引いた。
「大丈夫だ。それより、高堂・・・。」
「ん?」
「ツグミとは別れたから・・・な。」
もとより付き合っていないことを言えばよかったが今さらだと頭が判断してこの言葉になった。
「そう。」
緊張して言ったが高堂はさほど興味なさそうで何だか言ったことを後悔した。
「それでだ、高堂は、その・・・。」
本命であるこちらを聞きたかったが寸前で口ごもる。
「俺は元からいないよ。そんな存在。」
「え?」
「たまたま一緒に作業していた子がいてね、それが噂しちゃって。
でも、あの時否定しなかったのは樋口くんが嫉妬の一つでも覚えてくれないかなって、
淡い期待があったからだ。」
「高堂・・・。」
「でも、少しは気にしてくれたみたいだね。」
「・・・まあな。」
「帰ろうか。そんな表情しないでよ、抱き締めたくなる。」
高堂は恥ずかしさから顔を隠すように俯く俺の頭を撫でた。
「・・・これ以上戸惑わせないでくれ。」
口を覆って俺は高堂を見る。
「はいはい。」
高堂は笑っていた。
耳元また、心地よい声が俺に「好きだ」と言う。

俺はその言葉に対してやはり外国語でも聞いている気分は変わらない。
それでも、いつかいい返事を返せるときが来るだろうと思う。

幸せそうに、楽しそうに、俺に笑顔を向けてくれる高堂が隣にいれば幸せだった。

深く考える必要など何もなかった。



End