シャズィをベッドに寝かせた。

僕はそのベッドの端に座って眠るシャズィをじっと見つめていた。

まだ、眠らせただけ。

死んではいない。

 

シャズィの手を持ち上げると少しだけ体が反応した。

血の流れを感じる。

音を聞くように、温もりを求めるように僕はシャズィの手に頬をつけた。

僕は血を求めていた。

 

好きな人間を、どれだけ手にかけてきたのだろう。

いや、初めてだったかもしれない。

ずっと大好きだった友達は僕の横で眠っている。

 

シャズィは信じていない、吸血鬼がどんなものなのかを。

だから知ってもらいたかったと言えばシャズィは怒るのかな。

怒った姿を見たことがない。

もしかしたら絶望するのかな。

永遠という長い時間、僕とはきっと決別するだろうしね。

でも、血を貰い殺すという選択はどうしてもできなかった。

余った片手で、癖のある黒髪をいじる。

こんな感触なんだ、と口元が緩む。そのまま顔に手を滑らせて唇をなぞる。

 

―――――――結局、好きだと紡げなかったな。

 

僕は何を考えているのだろう。

手を戻して頬にあてた手をぎゅっと強く握った。

僕は手首に、爪を立てた。

血が滴る、僕はその血を舐める。

「…甘い。」

血は甘く、美味しいとさえ感じた。

手首に歯を立てて、その血を貰う。

それはどのみち人間の死を意味していた。

 

 

 

目覚めたシャズィは僕に何というだろう。

怒るのか悲しむのか、どんな言葉をぶつけてくるだろう。

 

楽しみだ、そう思ったのもつかの間

銃声が聞こえた。

それも、とても近いようで衝撃が走る。

「!」

刺すような痛みが左胸に感じた。

銃は僕に向けられていた。
手が血に染まる。
シャズィの血も混じっているのかな。

 

振り返れば、見覚えはないがあの町の住人だろう人が数名銃を構えて並んでいた。

新しい血はどくどくと流れる。

町の人間は僕を見て笑う。
しかしそれもまばらに皆、僕が殺した男の名を叫びながら家の中を荒していく。

 

これが罰ならばどんなに残酷な罰なのだろう。

僕は忘れてしまう。

シャズィも連れて行かれてしまう。

目が覚めた時、僕は一人だ。

 

意識は遠のいていく。

楽しい時間はすぐすぎるとは本当のことだ。

それを終わらせたのは自分。
たくさんの時間を、シャズィと過ごした気になって、実は本当に短い期間だったと思い知らされる。

 

僕はこの檻の中で再び目を覚ますがその時は一体どんな形で甦ってしまうのだろうか。

シャズィは晴れて吸血鬼。

町の人が心臓に杭をささなかったのはシャズィの今後を案じてだろう。
いつだって、町の人間は僕に甘いのだ。
シャズィは新しい体をひきずりながらここに来るだろう。
でも、僕は何一つ覚えていないから、きっとシャズィは困るだろうね。



死ぬ瞬間だけ、昔の自分が鮮明に見える。

なんて残酷で、最低な自分。

見たくはない真実を見せられた気分だ。

 

死ぬ間際の僕は、どんな顔をしているだろう。

いや、自分がどういう人間かがわかってしまったから
聞かなくたってわかる。


END
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