「・・・!?」 慌てて肘をみると、置いたひじが真っ赤になっていたのだ。思わず触って匂いを確かめると油絵の具のような匂いだった。 「ここって昔画家でも住んでいたのか?あ、こんなところに鳥の模型もあるし…あ…れ…これ屍骸…?」透明な袋に入った鳥は、よくみると少し腐っていた。そう思うと、また臭いも気になった。一気にこの地下倉庫が気味悪くなった。1人だとこの周りの空気がやけに重々しい。ここは無音だ。そう思うと怖くなる。 僕は壁によりかかりずるずると重力に抗うことなく地べたに座った。 「アル、一体どこまでいったんだよ…。」 さっきのあの怖くない映画を思い出した。あの舞台は、謎めいた密室。1人の女が、男に騙されて密室に連れこまれ、惨殺される。殺人鬼は、常に女を安心させる言葉を吐く。そうして緊張を解いたと思いきやあっけなく女を殺害するのだ。計画的なのは密室に連れ込むまでの過程、あとは密室の床に死体を埋めるという粗末な手段。僕はもう一度映写機を動かして、その映画を観た。そして映画の場所がまさに僕がいる舞台であることに気付いた。恐怖がさらに増しただけで、僕は勢いよく映写機を止めた。そんなはずない。 「あのアルがそんなことするわけないし…。」 僕はそういいながらもおもむろに地上へ出ようと階段を上った。 「今、何時だ…。」 僕は時計をみた。今は0時5分前。 「あと少しだ…」 誕生日のサプライズ出会ってほしい。0時になれば全てがわかると僕は勝手に思い込んだ。 ――何かあっても、これで…。 このときの僕はもう通常の思考を持ち合わせてはいなかった。 「ちょっと重すぎた…!やっぱ運べねえ…。」 「アル!」 妙に疲れた顔をしたアルがいた。僕の最高潮の緊張はどこかへと消えた。 「どうして、鍵閉めたんだよ。」 「だって、プレゼントみられたくなかったから…。 「誰が!もう出よう…、1人でいたら本当に怖くなった!」 僕は妙なトロフィーを元の位置に置いて階段へと向かうとアルが腕を掴んで阻んだ。掴まれた腕は痛いと悲鳴を上げたくなるほど強く少し怖かった。 「聞いてなかったのか?プレゼントっていったらハッピーバースデーだろ? 僕は緊張が解けた緩みからか自然と表情が笑っていた。 「…ありがとう。」 僕は、ケーキを探すアルの背中を見ながら肩を撫で下ろした。 「なあ。」 アルは相変わらず後ろを向きながら僕を呼んだ。 「何?」 「…怖かった?思い出に残るかさあ考えたらこのホラーテイスト。」 そういうとまたいつもどおりの笑顔をアルは見せた。 「怖かったよ…。」 「一生の思い出になっただろ?」 僕がホっとして笑うとアルは肩をそっと叩いた。 「こんなことは二度とないよ。」 「あっても困るよ…。」 僕は騙されたことを知りながらも怒る気力もなく脱力した声で言った。 「二度とないから。」 アルはもう一度同じことを言った。その後、こう続けた。 「だって、今日で誕生日を祝うことは終わりだから、さ?」 聞いたことがないほど冷たい声。 それなのに、物語は始まらない。
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