これは昔々のお話です。
あの腐ったウッドハウスの中。
何も無かった部屋はいい感じに散らかった。
僕の足、どうしよう、片足がないよ。
僕の手、あっ鳥が指を数本くわえていった。
僕の首、はぁ、目玉をくりぬかれてしまった。
あぁ、バラバラだ。どうしよう。
困った少年の首が静かに涙を零す。
そこに現れたのは世にも珍しい魔法使い。それは森の伝説。
伝説の魔法使いは言葉以外の全てを操るカミサマ。
ゆっくりと笑い、今ある部品をもってあるアパートへとやってくる。
風船宿、風船宿、風変わりの風船宿。
そこは有名でいて無名。閉鎖的でいて来るもの拒まず開放的。
奇妙奇天烈庭付きアパート。魔法使いもその住人の一人。
ここの支配人は少年をみて大喜び。
―――――なんて可愛いぼうや!
少年を愛おしそうな眼で見る支配人。
バラバラの少年は、支配人のぞっとするような醜い顔に恐怖を感じた。
それを知ってか知らずか、またはいつものことなのか。
魔法使いは無言で部屋へと戻っていく。そんな彼らに支配人はこう言葉を投げる。
―――――いい風船が育ったんだ!また後で下においでよ!
支配人は笑いながら言った。魔法使いは、無言。
言葉を操れない魔法使い。
決して言葉を口にしない。
ただ黙々と、今ある部品で少年をなおす。
片方の目はガラス玉をいれた。
無くなった数本の指は適当な粘土でそれっぽく。
片足は、この部屋の装飾品である人間の足の骨を拝借。
最後に魔法使いが何かを塗した。
これで完成、少年が出来上がった。
今までどおり歩けるようになった少年。
バラバラから元通り。
少年は喜んだ。ギスギスする身体に違和感を持ちながらも。
少年は魔法使いに感謝、そして恩返しをしようと思いつく。
二人は一緒に暮らすことになった。
少年は青年になり、魔法使いの弟子となる。
魔法使いは相変わらず言葉を操らない。
しかし、弟子といえ教わったことといったら道化の技。
人より感覚が鋭くなった。
こんなことが魔法とは思えない。
だから、弟子は魔法使いにこういった。
――――どうして魔法を教えてくれないんですか。それとも魔法なんてないんですか。
沈黙
魔法使いは何も言わない。
ただ、やさしく笑う。別になにというわけでもなく。
その頃から、弟子の身体は徐々に不安定になる。
あぁ、また指が取れた。なおせないなぁ。
あぁ、足が折れてしまった。はぁ、どうしてこんなことに。
眼が痛い、はずしてしまえこんな義眼。ガラスの割れる音が聞こえない。
なんてことだ!耳がとれてしまった!以前よりもヒドイ。
弟子の魔法はみるみる解ける。それは何故?
だって秘密を探れば魔法は効力を失ってしまうから。
不可思議が魔法、暴けば科学。
どんな質問でも、不思議を受け入れなければ終わり。
哀れな青年、またもやバラバラ。昔に逆戻り。
(―――――バイバイ、可愛い私の弟子)
魔法使いの口が、そう動いた。笑顔ではない、むしろ悲しい顔をしていた。
これでお話はおしまい。
*
その後の話。
―――――君は風船を配るんだ。簡単だろ?宣伝さ。
あの弟子はまた生かされた。誰かの片足、粘土の指、ガラスの目。
昔懐かしいこの違和感。
今度はこの支配人に助けられた。
―――――魔法使いは、ワタシが殺した。その恩返し、したいだろ?
有無を言わさず笑みが支配人を包む。
なんと滑稽
魔法使いの弟子は風船配りのピエロに転身。そして彼は伝説の一部に。
なんという皮肉!
彼もまた言葉を操る能力を失っていたのだから…。
Fin?
Back?
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もしよければこちらをBGMに読んでくだされば嬉しかったり。
http://www.youtube.com/watch?v=IkgsZmkcs90(コピペしてどぞ)